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通夜の終わった会場はロウソクの火が灯り、
薄暗い照明が照らしていた。
真也の眠る祭壇には百合が敷き詰められており、そこだけが明るく、なんだが幻想的な雰囲気を感じた。
私は祭壇にゆっくり歩きながら近づいた。
外にいる気がした。
春の柔らかな日差しと風が百合をなびかせている。
5日ぶりに、真也の顔をみた。
その姿はあまりにもかっこよくて、
私よりもサラサラな黒髪、
少し下まつげが長くて、
唇の斜め下にホクロがあって、
男性特有のがっしりした骨が皮膚越しに見えて。
「緒花。」
中音域の優しい声でその名前を呼ばれた気がした。
初めて声をかけてくれた時のこと、
初めて名前で呼ばれた時のこと、
初めて二人で出かけた時のこと、
たくさんのことを思い出した。
「真也。」
涙が出た。
目の前に真也がいる。
真也に会えなかったこの5日、
頭の中に聞こえた夢の中の真也の声は、
私の幻聴なんかじゃなくて、
本当に、本当に、本当に、
真也が生死を彷徨う中で、私にかけてくれた声だった。
「真也ぁ…私、大きなテレビが欲しいな…、大きな本棚を買って、本をたくさん買って…、真也と、、結婚、し、てさ、子供…も作って、ふたりじゃ、なくて、3人で、暮らすのはどう…?
真也がパパになったら、私が、子供産んだら、泣いて、泣いてよろこんで、くれるん…だよね。知ってるよ。
名前は、二人で…決めようね…
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