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さっきの部屋に戻った。
電気をつけると、変わらず不気味な顔をしたマネキンがこちらをみている。
無音の中、しばらくなにも考えず見つめ合ってた。
「本当にいいの?」
マネキンにそう言われた気がした。
「もういいよ。」
私は虚ろな目で見つめてマネキンにそう返した。
「お母さん、悲しむよ。」
マネキンはそう言った気がした。
「それはごめん。」
マネキンの顔も見ず私はワゴンにおいてあるハサミに手をつけた。
いろんなハサミがある。
長いハサミ、短いハサミ、持ち手が細いハサミ…
一番細くて鋭利なハサミを手にした。
ハサミは軽く、部屋の明かりが反射してギラギラ光っているように見えた。
「カットハサミはそうやって使うものじゃない。」
マネキンがまた喋った気がした。
「それはごめん。」
わかってる、だからそう短く返した。
「覚悟はあるの?」
うるさいマネキンだなぁ。
「覚悟も何も、私には何もない。」
ハサミを両手に持ち、自分の首に仕向けた。
よりハサミはギラギラ光り、私の首に突き刺さりたいと望んでいるかのようだった。
ハサミとはこんなにも殺意のある道具なのか。
手にグッと力を入れた、やり方なんか知らないけど、一発で絶てるように。
涙が溢れた。その涙はほおを伝い、床へポトッと一滴垂れた。
「さようなら、お母さん。」
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