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一層力をこめて、刃先を首にグッと刺そうとした瞬間、持っていたハサミを捕まれ、奥深くに刺さらず止まった。
私の首に少しだけ傷をつけた。
後から少しだけ血が出てきた。
血が垂れてワイシャツを少しだけ赤く染めた。
「………は…」
「この馬鹿野郎!!!人の商売道具で何してんだよ!!」
怒鳴られた。
そのままハサミを取り上げられ、両肩を捕まれぐいっと180度回転した。
目の前には家主がいた。
「真也が死んだからって自分も後追いかよ?他人のことも考えないで、 自分だけ逃げるのか?!」
」
今にも泣き出しそうな顔で、郁也くんが私に怒鳴り散らしてきた。
肩が痛かった、こんなにも乱暴にされるのは初めてで、痛いし、顔は怖いし、怒鳴られるし、怖かった。
「だって…だってさぁ!ずっと真也と一緒だった!これからも!ずっと真也といるつもりだった!私には真也しかいないんだよ!!」
郁也くんが正しい。
それは自分もよくわかっている。
じゃあ、私はどうしろと言うんだ。
生きて、何をすればいいんだ。
今までに出したことのない怒鳴り声を上げた。
郁也くんの胸ぐらを両手で掴んで、そのまま勢いよく郁也くんを壁に強く押し込んだ。
「あの時別れを惜しまずに子供みたいにグズって私の家に泊まればよかった!見送りなんてしなくていいって駅でバイバイすればよかった!郁也くんにはわかんないよ…私にとっての唯一は真也しかいないんだよ!」
そう言うと、郁也くんは何かがプツンと切れたのか、私を押しのけ、逆に壁に押し込んだ。
これが男女の力の差ってやつだろう、立場は形勢逆転した。
「俺だって!!唯一の弟は真也しかいないんだよ!!」
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