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開かれた箱の中には茶色いクッキーが入っていた。確かに形はいびつではあるが、それが慣れないなりに三人が懸命に作ってくれたのだと教えてくれる。自然と頬が緩んだのは俺だけではないだろう。
「これ三人で作ってくれたのお?」
「可愛いとこあるじゃんか」
「美味しそうだな、ありがとう」
安江も江西も上岡も、北野や近藤も目を細め一年生たちの好意にとろける程喜びを露にした。
俺も同様に三人の好意が嬉しく、早々にクッキーへと手をのばした。それに釣られ皆が手を伸ばすと、磐田が大きな声で止めにはいった。
「北野先輩と近藤先輩には実は別にあるんです!!」
名前を呼ばれた二人は勿論だが、周りも同時に目を丸くした。
三人はそれぞれ自身のカバンから小さな箱を2つずつ取り出し北野と近藤の前に並べた。さっきの箱と違い綺麗にラッピングされたそれは見るからに特別感が溢れだしている。
「これ、俺らに?」
「うそ嬉しいな」
人気生徒はこういった行事にはよく贈り物を貰うが、北野と近藤はあまりこういった贈り物には慣れていないようだ。
二人は照れるように頬をかき一年生たちに「ありがとう」と普段みせる事のない程の笑顔を浮かべた。
何とも微笑ましい光景だ。
緑茶をすすりたがら目の前で繰り広げられる青春ドラマのような光景に和んでいれば、若干二名面白くない人物が声をあげた。
「ずるいずるい!ぼくもそっちが欲しいー!!」
「だめっすよ!これは北野先輩と近藤先輩に作ったんですから」
「普通は俺たちに作ってくるだろー?何で近藤たちなんだよ」
「純粋に近藤先輩たちを尊敬しているからです」
「く、國仲!その言い方だと会長たちを尊敬してないみたいに聞こえるからっ」
「ちょっ江西!盗ろうとするな」
「3つもあるんだからケチケチすんなよなー」
「安江も勝手に開けんな」
「後輩の愛二人じめとか許さないもーん」
ああ今日も生徒会室は平和だな。
皆がじゃれている間に、俺と上岡は先にクッキーをいただくことにした。
「お、うまいな」
「ああ、今まで貰った中で一番嬉しいバレンタインだな」
「同感」
俺は可愛い一年生の好意に今からお返しはうんと喜ぶものを贈ろうと思いつつ、口に広がる柔らかい甘味を堪能した。
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