34人が本棚に入れています
本棚に追加
「今年も随分たくさん貰ったな」
俺と江西が付き合い始めてはじめてのバレンタイン。一応、イベント事を大事にしようと買っておいたチョコレートを持ち江西の部屋へと訪れた。
「んあ?陽介だって貰っただろ」
「……いや、全部断った」
「え、まじで?」
淹れてもらったコーヒーを口元に近づければ芳ばしい香りが鼻をくすぐる。
その香りを楽しみながら、自分の発言が重いのではないかと気づく。
「まあ断ったのは俺の勝手だから」
必死で誤魔化せば余計に女々しく聞こえ目を伏せた。
実際チョコレートの山に少なからず嫉妬をしている為、女々しいのは嘘ではないが江西にバレたくはない。だが、もうそれも時遅しで江西は困ったように眉を下げた。
「わり、俺も断るべきだったよな」
「だから俺が勝手にした事だから別に江西も合わせる必要はないって」
「……断ったっての聞いて俺すげー嬉しい。俺が逆の立場ならやっぱりむかつくし……だからごめん」
「いやいや、んな謝ることでもないだろ」
「食うのは陽介から貰ったのだけ食う」
後ろに回った江西に椅子ごと抱きしめられ再び「ごめん」と耳元で囁かれた。
お前だけ、と言ってもらえてるようで嬉しい。だが、チョコレートを渡した相手の気持ちをないがしろにし、食べ物を粗末にする事は許す訳にはいかない。
「全部食えよ」
抱きしめる腕に手を添え少し緩めると江西の顔を覗きこむように振り返る。
言われた事が理解できていない江西がきょとんと目を丸くしていた。可愛いなその表情。
バカップルのような事を思いつつ言葉を続ける。
最初のコメントを投稿しよう!