第1章

12/83
前へ
/83ページ
次へ
 「この子、颯野の彼女とかじゃないよね?」 春風さんがいきなりあたしを顎で指さして言う。  「うーん。彼女、とかではないんだよね。」 颯野さんが答えている。  しっかし、いつ見ても綺麗だなー。あの潤んだ瞳といい、ファッションといい、、、。 あたしはつい、春風さんを見てしまっていた。  「あたしね、そんでもって颯野の彼女なの。 いつか颯野早音になれたらなー、なんてなー, 」  「あのー、何、勝手に決めているんですか 。僕には、彼女はいません。」颯野さんが答える。  「えー。あたしと付き合ってるんだよー。 ふざけないでよ、だから今日も本、借りに来てやったのにー、こんな本、誰が読むのよ、誰が呼んでもつまんないわよ、こんな本。」  「そんなことない!!」あたしも負けじと言い返す。  「これは家宝よ。あなたには分からないかもしれないけどね、これは家宝なの。颯野さんにとっては全て大切。颯野さんは、颯野さんは、決して本のことを馬鹿にしたりなんかはしない。けなすようなこともない。颯野さんは美術作品にも凝っていてちゃんと目を通す人だし、何より本を大切に扱っている。分かっていないのはあなたよ。颯野さんの大切な家宝、無駄にするようなこと、しないでよっ!!」  あたしはそう言うと、さっさとランドセルを手に取り、足早に古書店を後にした。   ~*幸せとは何か.2*~  6月1日。もう授業全てが終わろうとしている。うちの部は火、水、金制なので、今日みたいな月曜日は部活がない。  「瀬ー川っ!!!」 「わぁ、涼也ー!!!どうしたの?何かある?」  「わりぃ。この後、話、ある。残ってろよ。」  「え?何?う、うん。」 この後に起こりうる出来事が、この先のあたしの事態を悪くすることになるなんて、今この時のあたしは全然、気づいていなかった。  キーン、コーン。学校終わりのチャイムが鳴る。帰りのHR(ホームルーム)も終わってしまったし、あとは涼也を待つだけなんだけど。 絢永涼也(あやなが・りょうや)。同じ学校、同級生。最近、というか、つい何ヵ月か前、永瀬京(ながせ・きょう)という芸名で、スプラッシュ・ライダーという人気アニメドラマに出演し、俳優デビューした。  同じ学校で同級生、同じクラス、っていうのはなんだか誇れる。誇りが高い。  そろそろかな、と思った。その約10分後。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加