第1章

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 そう言うと、かなりのスピードでこの場補から退散していった。 まぁ涼也んちは5丁目だし、門限もあるのかもしれないし、だから焦っているのかもしれないな。  あたしは自分にそう言い聞かせると、ドアノブを握った。  ☆★☆  翌日。6月3日。水曜日。  部活を終えたあたしは今日も古書店にいる。  お婆ちゃまには何とか門限を8時にしてもらって、あたしは今日も出て来た。  「その辺は僕の絵の具なんで、どうか、触らずに!!」  そう、あたしは今日も古書店にいる。  「は、はい。」  「なんか、なんだか、何というかこう、瀬川さんには、僕、見えます。なにかこう、糸のようなものが、、、色ははっきりとは分からいませんけど、何か見えます。」  「えええええっ!! み、見える、って何ですか? まさか、あ、れ、ですか?」  「はい。あ、れが見えてしまうようです。」  「えええええっ!!!どうしよう、あたし、怖いー!!!」  「あ、はっきり見えました。きのこ色、ですね、これは!!!」    「は、はぁ?」 「ほら、ここ!!」    そう言って颯野さんは自分の口元を指さす。  「はぁ?」  「口に、きのこの繊維入りケチャップ、付いてますよ!  「なななな なななな、なんだとー、そっちかーい!!!」 ズコーッ!!!  おいおい、そこは運命の赤い糸か、お化けだろ、ふつー。  ななななな、なんだとー!!!きのこの繊維入りだとー!!!  あたしは恥ずかしくなって視線を少し下向き加減にした。    「えへっ、可愛い、瀬川さん。」 「そ、そんなぁ、、、」  颯野さんがティッシュを差し出す。    胸がキュン、と音を立てて広がったような気がした。  ☆★☆  「それはともかく、絵描きにあたって、キュビズムという点描法をご存じですか?」  いきなり颯野さんが聞いてくる。  「いいえ。」 「中学で習いますよ、きっと。」  「そうですか。それが何か?」 「キュビズムっておかしなことに、全て点で描き上げているのに、くっきりではないけれど、そこにはちゃんと色が存在するんですよね。」  「すごいと思いませんか?」 「あ、確かに。」 颯野さんが見せてきたポスターをみて、あたしも思った。  言われて初めて、気付いた。 あたしもまだまだ鑑賞に弱いなー、と1人、思った。
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