第1章

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 颯野さんの返事を聞いたところで、あたしは家に帰った。この時はまだ、淡い恋心のはずだった。しかし、この後から徐々にヒートアップしていく恋愛になろうとは、この時の2人はまだ、知る由もなかった。  ~*幸せとは何か.1*~  次の週(来来来週)の火曜日。5月24日。 あたしは今日も午後4時から部活の時間だった。  今日も6分間、走る。その後でウォーミング・アップがあって次にフットワークへと入る。次に先生が書いた通りの練習をする。  今日は走り込みながらパスを2人で回し合ってシュートを決めていくという、いわゆるパスandシュート練(練習)だ。  美子ちゃんの回すボールが、そのままあたしの前に回って来る。力強いボールだった。 その衝動で、あたしは顔面にボールがぶつかりそうになったが、回転してくるボールをなんとか目の真ん前でキャッチした。  最近、あたしにだけ、こういうのが多い。他の子に回す時は普通の力でボールを回してあげているくせに、あたしにボールを回す時になると、冷たい冷湿布のようなお堅いボールが回って来る。  まるで、顔や胸を傷つけようとしているみたいに。嫌がらせだ。 あたしは怖かった。 そう、あたしはこの部に入ってから、いつも怖い。 どこからボールが回って来るのかと考えてはびくびくしている自分に気付く。  幸せとは、何だろう。あたしは、考えそうになってしまう、というか、つい、考えてしまう。幸せになりたい。  あたしは心のどこかで強く、そう願った。  自分を安心させるために古書店へ向かった。  先々週の門限6時はお婆ちゃまに訳を話してなんとか怒鳴られるのを阻止したが、今日は怒られてしまうかもしれない。それに、お箸セットを忘れた件については、ちゃっかり 怒られてしまった。  ☆★☆  「ゴッホ様のお描きになられるものは、やはり、我に来たり、か、、、ふむふむ。」  「ドラさんを想う気持ちにも、マリーさんを想う気持ちにも、どちらにも平等性は感じられる、そこは否めない。但し、但しだ。そこに至った功績を残しておくことが出来るのは芸術だ。これも1つの芸術なんだ。」  颯野さんは今日も呟いている。あたしは蒸し返す。  「はい?あのー、ちょっと。」 「あのー、聞いてます?」 思わず、腰をチョン、っと押してみる。  「わぁ!何ですか急に。 僕の芸術鑑賞の邪魔をして、、、」  
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