12年後

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 翌日からチョコの試作が始まった。材料はなんでも使っていいというアキさんの言葉が嬉しい。  しかし、初日で、アタシは挫折を味わったのだ。  つまり、チョコはテンパリングをするのに湯煎しなくてはいけないのだ。  アタシは冷たいものを扱う作業は得意だ。メレンゲも、ホイップも、材料を測るのも、フルーツを切ったりも、冷蔵庫の中に頭をつっこめばつっこむほど冴えるし、手際が良くなる。  でも、オーブンは、まだ使ったことがない。モンブランではマドレーヌとかフィナンシェと言った焼き菓子も人気がある。手土産にちょうどいいし、アキさんのラッピングがとても可愛いからだ。  焼き菓子は、いつもまとめて作っている。  このまえ大口の注文があった時のことだ。いつもの作業にプラスして、ギフト用の焼き菓子を焼く必要があった。  小暮店長はデコレーションの作業で手が離せないし、アキさんは、お店でお客様の対応をしていた。  で、オーブンのタイマーが鳴った。 「小雪ちゃん、オーブンから出してくれる?」  これまで、アタシにはまだ危険だからということで店長夫妻で担当していたが、この日はそうはいってられなかったのだ。 「は、はい!」  恐る恐る近づき、取っ手に手をふれたとたん、オーブンの温度ががくっと下降してしまった  とりだしたシフォンケーキは、くしゅんとつぶれてしまった。 「あれ、!なんだ。おかしいな。オーブンの故障か?」 店長が慌てて来る。  アタシは手袋をしていたのにもかかわらず火傷をしてしまっていたし、それより、せっかくのシフォンが、へちゃむくれになってしまい、涙が出た。 「て、店長。ごめんなさい」  アタシが雪女だから、だ。オーブンのせいではない。
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