12年後

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「いいんだよ。小雪ちゃんのせいじゃないから。それにしても、さっきまでは正常に動いていたのになあ」  店長はそう言ってオーブンをチェックしている。  アタシはそれ以来、オーブンには手を触れないようにしている。  今回のチョコの湯煎も全く自信がなかった。  問題は湯煎ということだ。ボウルに50度前後のお湯をいれて、 チョコを溶かすのだが、アタシがボウルを持つと、お湯が一気に冷めてしまう。 「あーん。ダメ、冷えちゃダメ」  いってもいうこときいてくれない。  たとえ沸騰したお湯を使おうと、一瞬で温度が低くなる。チョコは取り扱いが難しいのだ。上がったり下がったりそんなサウナみたいな湯煎では、気持ちよく溶けてくれない。 「えー? やっぱり無理? どうすりゃいいの?」  ズボンのポケットの携帯が鳴動した。  取り出してみると、賢人からだ。 「ごめん。今日は迎えは原田くんに頼んだ」  と出ている。  えーーーーーー。  ショック。ダブルショック。  なんで? ひどい。賢人ひどいよ。神様ひどいよ。  チョコもうまくいかないし。それに、お迎えも原田が来るなんて 。  アタシは涙が出てきた。カチカチのチョコをひとかけら口に入れる。  涙の味がしてしょっぱかった。
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