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原田くんは賢人の部下だ。賢人は中古車販売店の主任になっている。原田君はラーメンが大好物のおデブちゃんだ。
「小雪さあん、今日はぼくがお迎えにきましたあああ」
体と同じように、裏口で大きな声を出している。
「原田さん、よろしくお願いします」
アタシは一応挨拶する。
変な顔をしたら、賢人の立場が悪くなるから、とそれくらいはわかっている。
「では、帰りましょおおお。おうちは蛇塚ですよね?」
「ええ、そうです」
わかっているくせに、と、少しムッとする。賢人の家でゲームをするとか言って、金魚の糞みたいについてきたので何度か一緒になったことがある。
「小雪さん、小さいですね」
「へえ」
「でもそれくらいが、アイドルの条件みたいですよ。魔女っぽい可愛さですね」
「はあ、どうも」
原田君は饒舌だ。人懐こいし、あっさりしてるけど、無神経だ。
「主任、残業なんすよ。ぼくはそこまでしなくていいのではないかと思うんですが、あの人、とことんやっちゃう人でしょう?」
そうなのだ。賢人は確かに一途だ。それに責任感もある。
アタシの事心配ばかりしている。
心配は責任感からなのかな? と思う。あるいは義務感。
「小雪さん、本当に主任と親戚なんですか?」
「え? カネゴン、じゃなかった金子さんは、なんていっているんですか?」
「源氏物語だっていってますよ」
「源氏……」
王朝文学の代表的存在、源氏、それくらいならざっと知っている。
「あの、若紫でしたっけ? 幼い姫を自分好みの女性に育て上げる女たらし。ジゴロ。それと一緒だって」
「は? まさか」
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