12年後

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 アタシは愕然とした。それは自分こと? 賢人はアタシを理想の女性に育てようと?  まさか? 本当に?   小雪はぱあっと胸の中にバラが咲いたような気分になった。 「ですよね。ぼくも、この御代でそんなのありえない、って思っていますよ」と原田は小雪が否定したと思っている。 「でも、一部頷けますよね。主任て、ちょっと変わっているし、やけに達観しているというか、悟っているというか。金に執着なし。欲についていえば、すべてゼロ。いや、前言撤回。眠りますよ。睡眠すごい。眠り王子じゃなかった眠りアラフォー。やっぱり前言撤回。食欲はありますね。ラーメン系」 「ラーメン王子……」  アタシはまだ先程の源氏物語云々から回復していなかった。しかし 「主任、この頃胃もたれするらしいんですよ。濃厚なのはもうやめるって言ってます。ぼくは疲れだと思うんですけどね。それから、やっぱ、加齢であちこちガタが来てると思うんです」  という原田の言葉に現実に引き戻された。 「原田さん、カネ、金子さん、って疲労してるの?」 「してますよ! 一目瞭然。急転直下。諸行無常です」 「あ、」  アタシはこの頃の賢人がかなりデフォルメしてイメージされる。腹がでてきて、やたら惰眠をむさぼり、ビールの糖質を気にして、さらに、目頭をおさえ、車のヘッドレストがわずかに匂い、そして、皮膚の張りが失われ、トクホのお茶を選ぶようになった賢人が。 「おっと、コンビニに寄るようにいわれてました」  原田はコンビニの前で急ブレーキをふんだ。  この男は運転が下手だ。賢人は車の扱いが丁寧なのに。 「ねえ、原田さん、賢人が好きなアルコールってなに?」  いつもうまい棒を片手にアルコールを飲むのは知っていた。 「主任っすか? なんでも飲むと思いますがね。日本酒かなあ? 大吟醸あたりはどうですかあ? ぼくは、焼酎で全然オッケーです」
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