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『わたしの将来の夢はパティシエになることです』
小学校の卒業文集にそんな作文を書いて、ママに見せたら、笑われた。
「現実的すぎる」と。
「どうして? 現実的はだめってこと? だってアタシ得意なんだよ。生クリームをいっきに泡立てることできるよ。それもすごっく早いんだよ。真っ白い生クリームだよ」
生クリームでデコレーションしたケーキの写メを見せると
「そうなんだ」と、それでもママは釈然としてない様子だった。
「ママ、反対なの? パティシエになること」
「そうじゃないけど。なんか小雪はずいぶん人間っぽくなったな、と思ってさ」
「えー」
アタシは絶句する。
もちろん自分が、正真正銘の人間でないことは知っている。他の人、例えば里奈ちゃんとかにくらべると、頭もよくないし、夏は大の苦手だし、水泳も出来ないけど、でも、でも、人間に限りなく近づけるように努力はしているからだ。
「小雪、ママは心配。あんた自分の役目を忘れてしまったのではないのか?」
アタシはぐっと喉が詰まった。
アタシの役目は一つ目は魑魅魍魎の中でも絶滅危惧種とも、レッドリストともいわれている雪女の係累を絶やさないということだった。
そして……雪女として、冬は雪の世界をおさめ、そしてそれ以外の季節は仮眠でなく、夏眠をして低酸素状態にしてやり過ごす。そのルーティンを、受け継いでいくということが二つ目だ。
もちろん知っている。
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