12年後

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 それから3年たって、卒業式はまだだけど、高校へ進学する人たちは毎日補講に学校へ行っている頃、ワタシはモンブランで働き始めた。半年は研修期間ということで、お給料はちょっと少ないけれども、でも、自分ではケーキ職人見習いだと思っている。  モンブランのご主人は以前はN市の大きな洋菓子店で修業した経験があり、郷里のこの町に戻って来て店を開いた人だ。 「小雪ちゃん、ぼくはお子さんからお年寄りまで、だれでもおいしいといってくれるケーキを作りたいんだ」と言っている。  ショーケエスに並んでいるケーキはおなじみのショートケーキやショコラケーキ、シュークリーム、スフレといったもので、値段も手ごろなのだ。  モンブランがこの町に開店したとたん、お客さんが待ってましたとばかりに、こぞってやって来るようになった。  昼間は奥さんたちがお茶菓子にするのに、お昼過ぎは子どものおやつに、夜はお父さんたちが家族のお土産にケーキを買いにくる。  お誕生日のケーキを頼む人もいる。それから、素敵な結婚式のケーキとか。  結婚式か、とアタシはちょっと寂しくなった。いつか自分もしたいと思っていたから。 無理なんだろうけど。  だって……  確かにママがいうようにアタシは雪女としては落第なのかもしれない。  人間でもないし。  でも、こんなにも人間と同じになりたいと思っているし。 「小雪ちゃん」  アタシが洗い物をしていると、店長の小暮さんが呼んだ。 「小雪ちゃん、疲れただろう? ケーキ職人は体力仕事だからね」と言う。   「いいえ、店長。アタシ体力はあるんです。腕の力もすごっく強いんです」  と言った。  ケーキを作る部屋はすごく寒い。材料が痛むのを防ぐためだ。ピカピカのステンレスも冷たいし、大理石のプレートは硬くて冷え冷えとしている。調理器具も冷たい。  寒いのと冷たいのは得意だった。冬を統べるには体力勝負だから、生まれつき腕力はある。
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