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小走りにバックヤードの更衣室兼休憩室に向かった。
私服に着替えて、裏口から出るともう賢人の車が止まっていた。小暮さんのいうおじさんとは金子賢人のことだ。
賢人は世間的には遠縁のおじさんということになっている。学校へ報告する緊急連絡先も、いつもおばあちゃんの名と並んで賢人の名が記入された。
助手席のドアをあけて乗り込む。
「カネゴン、お迎えありがと」というと
「おう」といって車を発進させた。
カネゴンはアタシが高校進学はしないで、パティシエになるためにここで働きはじめるといったら、すごっく困ったような顔をしていた。
でもしばらく考えたあと帰りは迎えにくるよ、と言ってくれた。
ワタシの家から町までバスは朝と夕方1本しかないのだ。朝はちょうどよいけれども、 仕事が終わるころにはバスはもうない。
賢人の車で送迎はもう数えきれないくらい。ずーっとだ。
アタシは賢人がそばにいるこの時間が一番好き。
「小雪ちゃん、コンビニ寄る?」
必ず聞いてくれる。
「ううん、今日はいい」今日はすっごくいいことがね、と賢人に言おうと思ってワタシは止めた。内緒にしよう!
「カネゴン、小雪、今日は胸がいっぱいだから」
「そうか。アイスとかき氷はいいの?」
「うん。大丈夫。カネゴンは? 晩御飯食べた?」
「あー実は、カップラーメンたべた」とお腹をさする。
あたしはそっとカネゴンの腹を見た。少し出ている。いや、出てきている。カネゴンは37歳だ。もう、おじさん、の仲間入りしそうな年だ。
ママとの約束を律儀に守っているカネゴンは、彼女いない歴15年だそうだ。
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