12年後

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 小走りにバックヤードの更衣室兼休憩室に向かった。  私服に着替えて、裏口から出るともう賢人の車が止まっていた。小暮さんのいうおじさんとは金子賢人のことだ。  賢人は世間的には遠縁のおじさんということになっている。学校へ報告する緊急連絡先も、いつもおばあちゃんの名と並んで賢人の名が記入された。  助手席のドアをあけて乗り込む。 「カネゴン、お迎えありがと」というと 「おう」といって車を発進させた。  カネゴンはアタシが高校進学はしないで、パティシエになるためにここで働きはじめるといったら、すごっく困ったような顔をしていた。  でもしばらく考えたあと帰りは迎えにくるよ、と言ってくれた。  ワタシの家から町までバスは朝と夕方1本しかないのだ。朝はちょうどよいけれども、 仕事が終わるころにはバスはもうない。  賢人の車で送迎はもう数えきれないくらい。ずーっとだ。  アタシは賢人がそばにいるこの時間が一番好き。 「小雪ちゃん、コンビニ寄る?」  必ず聞いてくれる。 「ううん、今日はいい」今日はすっごくいいことがね、と賢人に言おうと思ってワタシは止めた。内緒にしよう! 「カネゴン、小雪、今日は胸がいっぱいだから」 「そうか。アイスとかき氷はいいの?」 「うん。大丈夫。カネゴンは? 晩御飯食べた?」 「あー実は、カップラーメンたべた」とお腹をさする。  あたしはそっとカネゴンの腹を見た。少し出ている。いや、出てきている。カネゴンは37歳だ。もう、おじさん、の仲間入りしそうな年だ。  ママとの約束を律儀に守っているカネゴンは、彼女いない歴15年だそうだ。
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