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火事
「えっ!?」
『か…じ…』
「火事?!……今行く!待ってて!」
僕は頭が回らず、訳も分からないまま彼女の家に向かって走り出した。
家を飛び出て三十秒もしないうちに、僕は自分の失態に気がついた。
速く走らなければ行けない今に限って、脱げやすいサンダルを履いてきてしまった。
冬の始まりを告げる北風がサンダルの隙間から僕を打つ。
部屋着の上に1枚羽織っただけの格好も、僕の身体を芯から冷やした。
分岐点まで休み無しに走って、一瞬だけ休みを取った。幼い頃の記憶と重ならないくらい、その道のりは果てしなく思えた。
「待ってろ……よ………っ」
自分の呟きで奮い立ち、僕は走るスピードを速めた。無論、サンダルは片方脱げて道に転がった。ぼくはそれを拾おうとも思えず、もう片方が脱げかけているのを横目に走り続けた。
やっと彼女の家の前についた頃には、息も切れ、晒した素足は小石に切られていた。
「ひどい………」
僕の口から漏れ出たのは、自分自身についてではなかった。
彼女の家「だった場所」には、瓦礫が積み上がっていたのだ。
「僕の初恋の相手を……火事なんかに盗られてたまるか………!」
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