風渡り

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風渡り

01 風の声を聞き、里や村の災いを払うものがいる。彼らは風の里と呼ばれる場所に産まれ、様々な技術を会得したのち旅に出る。彼らは名を持たずただ"風渡り"と呼ばれている。 そしてここにひとり、風渡りと呼ばれる少女が居た。風がすすき草原を撫でるなか瞳を閉じて風の声を聞いている。風渡りは基本的に男性のことを指し、女性は里に篭り子を育てるとされている。だが彼女は自ら風渡りになることを決めた。というのも1年に1度は必ず帰ってくる風渡りだった父が(アヤカシ)の討伐に失敗し亡くなったと風が伝えに来た。けれど風は詳しくは教えてくれない。どのように、何故、どこで。それらには沈黙してしまう。母は彼女が風渡りになることを反対したが、父の死の真相を知りたかった。少しすると風の声が止み、すすきは動きを止め静寂が訪れた。ゆっくりと少女の瞼が持ち上がり、深緑の瞳がここではない別の何処かを見るように一点を見つめた。 「向かいます」 一言伝えるようにぽつりと零すと、風は気を付けてと送り出すように彼女の頬を撫でた。そして彼女は足を進めた。風渡りを必要としている場所へと。     
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