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月
白い月がうっすらと身をさらす、五月の昼間のことだ。
月森は非常階段をのぼっていた。早く昼休みに戻りたくて、早足だった。生徒たちの喧騒が聞こえる。
鬼塚はいつもの黒い姿で、段に腰掛けて待ち受けていた。
「いくらオレでも来世とか正直めんどくさいね。輪廻転生とかいいから今生で贅沢させて欲しい」
鬼塚の話はだいたい突拍子もない台詞から始まる。月森はそれにまだ慣れていない。
「まさかくだらない愚痴のために呼んだのか」
「ちがうっての。ほい」
鬼塚は一冊の本を差し出す。先日月森が貸した、天文学の入門書だ。
「面白かったよ、ありがと」
「また変なこと考えてんだろ」
受け取り、月森は眼鏡を押し上げる。
「まあね」
鬼塚は赤い唇の両端をにっと吊り上げる。悪巧みしているかのような表情だ。
「神秘的なものといえば天体も欠かせないよね」
「俺を巻き込むなよ頼むから」
鬼塚がたまに読む胡散臭い本の詳細に、月森は興味がない。
「じゃあな」月森はさっさと戻ろうとする。
「もう行くのかよ」
「昼休みは長くないんだよ」
「待てよ。お前今度、天堂と二人で遊びに行くの?」
足が止まる。
「なんで知ってるんだ」
「昨日天堂がうっかり教えてくれたんだよ」
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