1/11
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

 白い月がうっすらと身をさらす、五月の昼間のことだ。  月森は非常階段をのぼっていた。早く昼休みに戻りたくて、早足だった。生徒たちの喧騒が聞こえる。  鬼塚はいつもの黒い姿で、段に腰掛けて待ち受けていた。 「いくらオレでも来世とか正直めんどくさいね。輪廻転生とかいいから今生で贅沢させて欲しい」  鬼塚の話はだいたい突拍子もない台詞から始まる。月森はそれにまだ慣れていない。 「まさかくだらない愚痴のために呼んだのか」 「ちがうっての。ほい」  鬼塚は一冊の本を差し出す。先日月森が貸した、天文学の入門書だ。 「面白かったよ、ありがと」 「また変なこと考えてんだろ」  受け取り、月森は眼鏡を押し上げる。 「まあね」  鬼塚は赤い唇の両端をにっと吊り上げる。悪巧みしているかのような表情だ。 「神秘的なものといえば天体も欠かせないよね」 「俺を巻き込むなよ頼むから」  鬼塚がたまに読む胡散臭い本の詳細に、月森は興味がない。 「じゃあな」月森はさっさと戻ろうとする。 「もう行くのかよ」 「昼休みは長くないんだよ」 「待てよ。お前今度、天堂と二人で遊びに行くの?」  足が止まる。 「なんで知ってるんだ」 「昨日天堂がうっかり教えてくれたんだよ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!