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しかし、敵が落ち着いてしまえば一転、大窮地に陥るのは分かっている。近藤は遮二無二剣を振るった。
何度か、敵の剣先が羽織をかすっていた。運次第では、既に何度死んでいるか分からない。
その時、いきなり、池田屋の中が闇に包まれる。
店の中に三つか四つしか無かった行灯が、全て消された。
近藤らが斬り込んだ時、長州に与する店主は、浪士を逃がしやすくする為にすぐ行灯を消そうとした。それが戦闘が始まった為に手が遅れ、ようやくここに来て全て消し終えた。
だが、これが皮肉なことに、新撰組に有利を運ぶ。
暗がりでは、敵味方の区別がつきにくい。寡兵の新撰組にすれば、とにかく眼前の敵を斬れば良い。
同士討ちを恐れて惑う浪士たちに対して、近藤の剣がいよいよ勢いを得た。
万が一の用心にと、近藤は人影に切り付ける前に
「水!」
と叫んだ。
突入した新撰組の四人は、いずれも旧知の仲であり、新撰組の前身を知る者達だった。
近藤はかつて、戯れに合言葉を「水」と「鏡」と決め、いずれ夜襲などやることになったらこれを使おう、と気の置けない剣士達に告げていたことがある。
すると池田屋の、近藤がいるのとは逆側の隅から
「鏡!」
と永倉の声がした。
(永倉君は生きている)
近藤は永倉を励ます為に
「おう!」
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