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土砂降りの夜、映画館の前で雨宿りをしていた。
急な雨だったため傘を持ち合わせていなかった。それにもう深夜1時近くになっており周りの店は明かりが消え、この映画館が唯一光を放っていた。
タクシーを呼ぶにもお金に余裕が無かった初江はただひたすら雨が止むのを待っていた。
寒さに身を縮めて、雨を凌いでいると、同じように急な雨で困った様子の1人の青年が光を放つ映画館へと小走りで近づいてきた。
この青年は後の初江の夫となる人物である。
青年は初江を見つけ苦笑いをしながら話しかけてきた。
「すごい雨ですね。」
「ええ、雨をしのげる所がここぐらいしかなくて。」
初江は急に話しかけてきた青年に一瞬戸惑いつつも返答した。
「家は近くなんですか?」
「ここからは少し距離があるので、どうしようかと思っていたところです。」
「良かったら、この映画でも一緒に見ませんか?」
青年はガラス張りになったポスターを指さしながら尋ねてきた。
初江はこの時誰ともお付き合いなどしたことがなかった。急に恥ずかしい気持ちが襲った。
「いえ、雨が止んだら帰りますから。」
初江は照れながら断りを入れた。
「でも、この雨止みそうにないですよ。中の方が暖かいしつまらなかったら寝てしまえば良いんですよ。」
そう言うと青年はチケットブースで大人2枚分のチケットを購入してきた。
はじめこそ見知らぬ青年と一緒にいることに緊張していたが、初江はよく分からないアクション映画に興味が持てず途中で寝てしまった。
そして、気づけば青年の肩にもれかかっていた。
はっと目が覚めた。
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