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辛いのが苦手な俺には、とても食べられそうにない。
けれど、そんなことは、もちろん言わない。
「へ、へぇ……おいしそうだね」
「よかったら一口食べてみる?」
「え?」
「はい。いいよ」
満面の笑みで、三ノ宮さんは食べかけのホットドッグをさしだしてくれた。
まさかの間接キスの予感に、俺の気持ちはたかぶった。
「……食べていいの?」
「うんっ。遠慮しないで。すっごくおいしいよ」
無垢な笑顔を見せる三ノ宮さん。
辛いのは苦手だけど……三ノ宮さんと間接キスができるなら!!
俺は、ホットドッグを受けとると、大きく口を開け躊躇なくかぶりついた。
瞬間、口いっぱいにスパイシーな香りが広がる。
そして、じわじわと襲ってきたのは、ピリピリと舌が痺れる感覚。
すぐにおさまるかと思いきや、舌の痺れは増すばかり。
ーーこれは……相当な辛さだ。
間接キスがうれしいとか、そういう話ではない。
ただ辛い。
辛すぎてどうしようもない。
味なんてない。
ただ辛い。
どうすればいいのかわからないほど辛い。
「ね、おいしいでしょ? って、園田くん、顔真っ赤。それにすっごい汗。大丈夫!?」
「ら、らぃひょふ……」
「ちょ、園田くん!?」
「し、死ぬ……」
正直、ぜんぜん大丈夫じゃなかった。
そのあと、三ノ宮さんに水を買ってきてもらったり、汗と涙を拭くためのハンカチを借りたりした。
しばらくの間、その場でうずくまっていた。
甘い思い出になるかと期待していたのに、猛烈に恥ずかしい思い出になってしまった。
「三ノ宮さん……迷惑かけてごめん」
「あはは。ぜんぜんいいよ。私も悪かったんだし。っていうか、園田くんって面白いね。意外な一面にちょっとキュンってなっちゃった」
「え?」
ーーこれは、もしかして恋の予感?
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