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キリコは僕を一刻も早く社会復帰されるために様々な手を打ち始めた。
就寝時の拘束ベルトが無くなったのは、キリコの強い進言があったからだ。キリコの読み通り、拘束されなくなると就寝中に暴れることもなくなった。
施設の外を一周する散歩もキリコの提案だ。塀伝いの道ではあるが、一応は施設の外なので確かに気持ちが変わる。マスコミの連中が超望遠レンズで狙っているかもしれないし、その嫌な緊張感は施設内では経験できない。
キリコは僕の社会復帰に持てる力の全てを注ぎ込んでくれている。それが仇になるのではないかと僕は気が気ではなかった。
社会復帰プログラムの定例ミーティングでキリコが欠席だと知らされたとき、僕の身体は一瞬にして凍り付いた。キリコの呼び掛けで始まったミーティングだし、キリコ抜きで成立しないことはキリコ自身が一番よく分かっている筈だ。
「先生に何かあったんですか?」
医療ソ―シャルワーカーの女性に訊いてみたが、彼女は意図的に口籠った。
嫌な予感がどんどん大きくなっていく。
「過食症とかって、かなりヤバいって聞いたことがあります。食っては吐いて・・・・」
「そんなんじゃないの」
「でも先生が欠席なんて、そうとうなことですよね?」
「隠しても仕方ないから言うわ」
「万引きをね・・・・」と、彼女は呟くように言った。
僕は彼女の発言の意味がサッパリ分からなかった。
「コンビニで万引きしているところを押さえられたらしいわ・・・・チョコレートだって・・・・信じられる?」
青い鳥の仕業だ。僕はそう確信した。
「更に悪いことに、マスコミが先生を尾行していたから万引きの瞬間をスクープされたの。遅かれ早かれ週刊誌かネットに流れると思う。こんなことは言いたくないけど、今のまま仕事を続けるのは無理ね」
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