第2章 野蛮な鳥

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就寝中は両手首、両足首、胴回りを拘束ベルトで固体されていて寝返りの真似事くらいしか出来ないが、日中は監視付きではあるが身体の拘束はない。自殺の危険はないという判断だ。 僕に自殺願望など最初からありはしないのに精神鑑定の結果報告の中に自殺願望について触れられた箇所があったらしい。精神鑑定の結果が真実だとは、少なくとも僕は思っていない。 鋼鉄の支え棒でマスターの頭部を数回にわたり殴打したとき、確かに僕はマスターではなく、僕を喰おうとしている妖怪を殴打していた。それは本当だ。だから傷害について不起訴となったのは僕がずる賢く立ち回ったからではない。 「まだ青い鳥が現実に存在しているって思っているのね?」 精神科医の安曇野キリコは、もうそろそろ勘弁してくれという風だった。 「思ってるって言うか、存在してますもん・・・・河原で、ここんとこに」 「右肩に留まったのよね・・・・それは何度も聞いたわ・・・・あなたの欲望を食べるんでしょう?」 「信じられないなら、それで構いませんよ、僕は」 「あなたの心の中に芽生える衝動は全て、その青い鳥の仕業だということね?」 「全てかどうか・・・・青い鳥の仕業というのも絶対かと言われると、そこまでの自信は・・・・」 キリコは唸るように溜め息をついた。 「なぜ私が溜め息をついているか分かる? あなたが精神科医泣かせの患者だからよ」 「そうなんですか?」 僕にはそんな認識は全くなかったし、どの部分が精神科医泣かせなのかサッパリ分からない。 「妄想に取りつかれているケースとは全く違う・・・・あなたの精神はとても正常に思えるわ。でも、その正常な頭で荒唐無稽な青い鳥の話を八十パーセントか、それ以上信じている・・・・目の前で奇跡が起きたわけでもないのに・・・・私たちを欺こうとして演技をしているわけでもない・・・・どういうことかしらね?」 「精神科医の先生が分からないのに、僕に訊かれても分かるわけ、ないですよ」 キリコは僕に聴こえるように大袈裟に深呼吸した。 「ちゃんと食べてるわね?」 僕が頷くと「摂食障害、特になし・・・・」と呟きながらキリコはカルテに記入した。
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