第2章 野蛮な鳥

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あの女の証言が僕の精神鑑定の結果に少なからず影響を与えたとキリコがオフレコで明かしてくれた。僕があの女の話をしたのは、自分に有利になると思ったからではなく、彼女について話さないと青い鳥の説明が出来なかったからだ。 「あなたにも或る意味で驚いたけど、彼女にはもっと驚いたわ。先ず外科的見地から、あれだけ身体を改造しても人間って普通に生活できるんだって驚いたの」 「彼女、自分の身体と呼べるものは殆ど残っていないと言ってましから」 「彼女が何故あんなことをしたのか、あなたは知っていたの?」 「青い鳥に導かれたんでしょう?」 「美しくなりたかったからよ。老化や紫外線なんかで細胞が死滅していくのが怖くて、それで無機的な身体に造り替えようと思ったらしいの。あそこまでするのに十二年かかったって聞いて、ひっくり返りそうになったわ。貴重な青春時代を全てそれに費やしたわけだから」 十二年というのは驚きだった。彼女の「美しくなりたい」という欲望を青い鳥は十二年間も喰らい続けたわけだ。僕はこれから先の十二年間を漠然とイメージしてゾッとした。 「ダイエットや美容に固執し過ぎて精神のバランスを崩してしまうケースはよくあるけど、あそこまではねえ・・・・それこそ青い鳥みたいな荒唐無稽な仮説を立てないと説明がつかないわね」 キリコは言い終えて「青い鳥の話を信じたわけじゃないから」と慌てて付け加えた。 「人体改造って言うか、彼女の場合、美容整形とかのレベルを軽く超えちゃってますよね? 違法なのかどうかはよく分からないけど、誰がやったんですか?」 「それに関しては私の口から言うわけにはいかないんだけど、医者の中にはサイボーグとかインプランタブルに傾倒している連中がいてね。そういう輩は自己顕示欲の塊みたいなのが多いのよ。人体改造した実例を動画にアップするような不届き者までいるんだから不謹慎極まりないわね」 「自己顕示欲、ですか・・・・」 「何? それも青い鳥のせいにする気?」 美しくなりたいという彼女の尽きない欲望と自己顕示欲の塊のような医師。この組み合わせなら、欲望を育て、備蓄し、喰らう、という青い鳥にとって理想的だ。 僕はキリコを安心させるために頭を振って見せた。
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