第2章 野蛮な鳥

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キリコは沈黙した。僕が何故そんな質問をしたのか、精神科医として分析しているのだろう。 「そうか!」と、キリコが嬉しそうに言った。 「青い鳥の支配から逃れられると考えたのね?」 キリコの分析は正しい。精神が崩壊して欲望を抱けなくなった僕は青い鳥にとってスクラップ同然で即ゴミ箱行きだ。 「やり方としては勿論、賛成できないけど、青い鳥の呪縛から逃れようという前向きな考え方には大賛成よ。抗おうとする気持ちが少しでもあるなら大丈夫。一緒に青い鳥の呪縛を解いて社会復帰まで頑張りましょう」 確かに代償は大きいが、青い鳥の支配からは逃れられる。そうでなかったら僕は青い鳥が育て、備蓄する欲望によって一生振り回される。あの女の末路を考えると、精神が崩壊した方が増しだ。 キリコが考えている社会復帰は、おそらく楽観的過ぎると思うが、彼女の方針に乗っかれば、僕は「自らの精神と引き換えに」ではあるが、青い鳥の支配から逃れられるのだ。 「分かりました。社会復帰に向けて頑張ろうと思います。よろしくお願いします」 「よかった! これでやっと医者としてあなたの役に立てそうだわ」 キリコは仕事熱心だから、きっと僕を社会復帰させるだろう。 僕の心は軽くなった。おぞましくて忌まわしい妖怪として衆目に曝される精神的苦痛は想像を絶するものがあるが、それも精神が崩壊するまでの辛抱だ。僕は自分の精神が脆いことをよく知っている。もって一カ月といったところだろう。 「早速、社会復帰までのプランを医療ソーシャルワーカーと相談してみるわ。あなたがその気になって積極的に協力してくれたら必ず上手く行くから」 キリコが意気揚々と引き上げていく後ろ姿が見えるようだった。 僕がこういう具合に反旗を翻すとは、さすがに青い鳥も予想していなかっただろう。 青い鳥は僕のことを甘く見過ぎていたのだ。 僕は優勝祝賀パレードにダークホースヒーローとして参加しているような気分だった。 僕はこのときまだ青い鳥の本当の恐ろしさを知らなかったから。
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