第2章 野蛮な鳥

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医療ソーシャルワーカーと雑談しながら施設内を散歩していると、リノリウムを削り取るような勢いで靴音が近付いてきた。 「先生。何だか凄く慌てているみたいですけど、どうしたんですか?」 一瞬、間があったのは、僕がキリコの靴音を憶えてしまっていることに驚いたからだろう。 「どうも、こうもないわ。最低!」 いつも論理的に話すキリコにしては珍しく、一部の女子高生のように言葉足らずだ。 「どうやって嗅ぎ付けたのか知らないけど、マスコミの人間が待ち伏せしていて・・・・ああ、こんなこと、あなたに話すことじゃないわね」 「構いませんよ。僕ならもう大丈夫ですから。先生が僕の治療に尽力してくれていることをマスコミが嗅ぎ付けたんですね?」 キリコがチュッパチャップスのような棒状のキャンディーを舐めている音を僕の耳は聴き逃さなかった。その舐め方が忙しなくて、何だか過食症のような病的なニュアンスを僕は感じた。 「そうなの。まるで・・・・」 キリコはその先を言い掛けて、しかし、口籠った。 「先生。何か舐めてません?」 僕は何故かそのことが気になって訊いてみた。 「ごめんなさい。こんなところで。私、苛々すると甘いものが無性に食べたくなるの。まあ、それに関しての精神科医としての専門的コメントは控えるけど」 「何となく分かるような気がします。マスコミ対応でかなり精神的にダメージを受けたんですね? 僕のせいで、済みません」 「あなたが謝る必要なんて全然・・・・社会全体が病んでいるのよ。魔女狩りの時代から何にも進歩してないんだから、まったく・・・・」 キャンディーを舐める音がどんどん過激になっていく。少なくとも僕は、これほど忙しなくキャンディーを舐める女性にこれまで出会ったことはない。 「僕の治療をしているなんて、まるで妖怪の仲間みたいに言われたんじゃないですか?」 パキっという音がした。キャンディーのスティックが折れた音だ。
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