第2章 野蛮な鳥

9/25
205人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「魔女狩りの時代から何にも進歩してない」という発言が正しいことを発言したキリコ自身が証明する破目になってしまった。 万引き事件以来、キリコは魔女狩りの対象となり、さすがに中世ヨーロッパのように炎で身体を焼かれることこそなかったものの精神的には火炙り並みの恐怖と苦痛を受けることになった。 キリコが再び施設に現れることはなかった。体重が二百キロ近くまで増大してベッドから起き上がれないという噂を耳にした。職員たちは根も葉もない誹謗中傷の類だと切り捨てるが、僕はそうは思わない。 人間の欲望は底なしで、理性の箍が外れれば何処までも際限なく増大していく。青い鳥はその箍をそっと外す。ただ、それだけだ。 キリコの後任の笠井マサキは、攻撃的だったキリコとは対照的に優しい喋り方の女性だった。せっかく僕を助けようとしてくれているのに出鼻をくじくのは忍びないが、周囲の人間が悲惨な目に遭うのは僕にとって苦痛なのだ。 「僕を社会から完全に隔離してください。それが僕の唯一の望みです。もし無理やり社会復帰させようとしたら自ら死を選ぶことも辞さない決意ですから。僕は本気ですよ」 マサキは沈黙した。僕は申し訳ない気持ちで一杯だった。 「催眠療法ってご存知ですか?」 マサキは穏やかな調子で訊いてきた。その声からすると全く動揺した様子はない。 「催眠状態で深層心理に働きかけたりするんです。治療と言うよりは治療のヒントを得る為のもので」 「僕に催眠術をかけようって言うんですか?」 「あなたの心を支配している青い鳥の正体が知りたいんです。相手を知らないと対処のしようがないでしょう?」 青い鳥の正体・・・・。 「そんなことが可能なんですか?」 「青い鳥はあなた自身が創り出したんです。だからあなたの心の中を探っていけば青い鳥の正体が分かると考えています」 僕自身が創り出した・・・・。 「あなたも知りたい筈です。青い鳥の正体を」
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!