Chapter.1

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入学試験前日。 樹が最後の追い込みをしていると、玄関チャイムが鳴った。 母親は夕飯の買い出しにでも行っているのか、留守だった。 「はぁい」 面倒くさそうにドアを開けると、そこには優奈が立っていた。 両手を後ろに組んだまま、優奈がはにかみながら笑った。 頬が少し赤らんでいるのは、寒さのせいだろうか? 「あれ? 今日は来ないんじゃなかったっけ?」 樹が首を傾げる。 入試の前日は、あまり根を詰めず、今までのおさらいを軽くする程度にした方がいいと提案したのは、優奈だった。 「うん。そうなんだけどさ」 いつも沈着冷静の優奈が、珍しくモジモジしている。 「うち、上がる?」 樹の誘いに「ううん」と首を振った優奈は、思い切ったように両手を前に差し出した。 「はい、これ。あげる」 手のひらには、小さな箱が乗っていた。 焦げ茶色の包装紙で丁寧にラッピングが施された上に、目にも鮮やかな赤いリボンが巻かれている。 「明日、頑張って!」 恥ずかしそうな笑顔と共に一言告げると、優奈は逃げるように自宅へと消えた。
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