Chapter.1

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「何なんだ? 一体……」 手の中に収まるくらいの小さな箱を見つめ首を傾げた途端、樹の頭に驚愕の八文字が浮かび上がった。 「バ、バレンタインデー!」 慌てて家に駆け込むと、乱暴に靴を脱ぎ捨て、自室へと向かう。階段を登る足がもどかしい。 急いで後ろ手にドアを閉めた樹は、騒ぐ心臓をぎゅっと押さえた。 「落ち着け、落ち着け、落ち着け……」 震える指でリボンを解く。 思わずハサミで切ってしまいたくなる衝動を必死で抑える。 ――赤い紐は、切ってはいけない。 混乱する頭で、樹はそんな事を考える。 ようやく解けたリボンをゆっくり外し、丁寧に包みを開いていく。 中から出てきたのは、黒い箱だった。 有名チョコレート店の、重厚感のある黒い箱……。 「おおっ!」 喜びに震えながら、樹はそっと、蓋を持ち上げた。
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