Chapter.1

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「……何だこれ?」 箱の中の物を指で摘む。 樹に取り出されたそれは、合格祈願の御守りだった。 「チョコじゃねーのかよ」 はあぁぁぁー、と盛大にため息をつき、樹は頭を抱え込んだ。 「……のやろう。期待させやがって……」 スマホを掴むと、樹は素早くアドレスを呼び出し、通話ボタンをタップした。 間もなく『もしもし?』と聞き慣れた声が耳に届く。その声に向かって、樹はありったけの不機嫌オーラを撒き散らした。 「おい。中身、違うぞ」 『はぁ? 何が?』 この期に及んで、しらばっくれるつもりか? 不機嫌オーラを保ったまま、樹は続ける。 「この場合、チョコじゃないんですか? 普通」 しばし沈黙の後、あはははは、という、さも可笑しそうな優奈の笑い声が返ってきた。 『受験生が、色気付いてんじゃないの! そういうことは、受かってから言いなさい』 「ううっ……」 優奈の言葉はごもっともだ。 反論できない樹に、優奈が優しく語りかけた。 『大丈夫。樹なら受かるよ。私が保証する』 「優奈……」 『明日はその御守り、忘れないでね。心を込めて願掛けといたから』 「わかった。ありがとう」 右手でそっと包み込むと、御守りから優奈の温もりが伝わってくるような気がして、樹はそれを、無意識に胸に当てた。
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