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二日後、隊は再び二班に分かれて当初の目的地を目指す事となった。
ランバート達三班が先に出発し、ファウスト達もすぐに出発する。
「すまない、少しだけ先に行ってもらえるか?」
隊に声をかければ、今回一番苦労をしたタウが嫌な顔をする。
「またいなくなるわけ?」
「すぐに追う。少し、やり残した事があるんだ」
そう言えば、渋々と先に行ってくれる。
ファウストは懐から、受け取った十字架を取り出し、それをそっと湖へと沈めた。揺らめきながら落ちていく十字架が、徐々に見えなくなっていく。
背後で、草を踏む音がする。振り向くと、そこにはシャラが心配そうな顔で立っていた。
「あの……ごめんなさい、私」
「いや、構わない」
「……それ、あの人の」
「……あぁ」
胸に残った感情を、どうやって処理していいかは未だに分からない。全てが偽物だった。だが感じた切なさや苦しさ、こみ上げる熱い鼓動は確かに感じたものだった。今までファウストの中にはなかったものなのだ。
近づいてきたシャラを、そっと引き寄せる。腕の中に収まる華奢な肩を抱きしめると、あの時の僅かな熱がふと戻るように思う。
だが、あの時のように過剰ではない。ゆっくりと、温かなものが心を埋めて広がっていく。
「すまなかった、悲しませてしまって」
「え?」
「苦しそうな顔を、していた」
シャラは驚いて、次には俯く。気付いてはいけない部分だったのだろうか。
「もう、そんな顔はさせないと誓う」
「……はい」
おずおずと背に触れる手の温もりを、離しがたく思う。腕の中にある者を、守らなければと強く思う。それは、ファウストの力になるようだ。
「……行こうか」
「はい」
名残惜しく手を離し、連れだって先行している隊を追う。静寂の森に、十字架一つを残して。
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