義賊始動

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ヨハンナも何処か思う所があったのだろうか、オリーブの答えに成る程と頷き前を向く。 「ハクロウ君に呼ばれ駆け付けた時には、流石にワタシも肝が冷えたよ。あのファウスト殿が血塗れで倒れているのだからな」 ジェニファーを同行させていて本当に良かったと、早くも人の上に立つ者の気苦労が滲んで見える表情を浮かべ安堵の溜め息を交えて言うヨハンナにオリーブも同意する様に頷いていた。 「……命は脆い。何れだけ強い人でも、弱い部分を突いてしまえば殺せる」 『人形』の様に、命じられた通り、望まれた通り、ただ流されるがまま虚ろに生きてきたオリーブにとって、感情や心は命その物だ。 だからこそオリーブはランバートに命を救われたのだと強く恩義を感じており、口にする命という言葉にも二つの意味がある。 無論そんな隠された意味を読み取れ る筈など無いのだが、滅多に自分から口を開く事の無いオリーブが自分から話し始めたという事もあり、ヨハンナは歩くペースをオリーブに合わせて隣で静かに話を聞き続けている。 「今回のファウストさんを見て、もっと強くならなければと感じた。失わなくて済む様な、そんな強さが必要なんだ」 血塗れになっているファウストを見た時に感じた『失うかも知れない恐怖』 初めて感じた身体の内側からゆっくり凍り付いて行くかの様なその感覚は、二日経った今でもオリーブの内に残り続けていた。 そんなオリーブの、まるで自分に言い聞かせている様なその言い方に危うさを感じたヨハンナは、僅かに眉を寄せる。 「確かにそうかも知れないが、気負い過ぎては身が持たないぞ? 無理をして身体を壊しては本末転倒だろう」 「分かっている、無茶な真似はしないし足を引っ張る様な事もしない。ただ大事なものを守れる様に全力を尽くすだけだ」 「大事なものとは、ランバート殿の事か?」 「強いて言うのなら、オレを受け入れてくれたこの部隊だな。無論そのなかでも一番大切なのはランバートだが」 「そうか……… ならば重ねて言うが、くれぐれも死に急ぐ様な真似はしないでくれ。君とて、君の大事なもの達を悲しませたり心配を掛けるのは望まぬ事だろう」 「……善処はする」 手鏡を殴り壊した右手をランバートが手当てをしてくれた時の事を思い出し、心当たりや自信の無さからオリーブは僅かに目を泳がせ歯切れ悪く呟いた。
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