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――俺にだって理不尽なことが降りかかるのだから、そりゃ俺以外の人間にだって降りかかるわけで。
昨今の冒険者事情もそうだが、貴族事情もなかなかに酷いのだ。まあ、世の中がこんなんだから支配者層の貴族だってピリピリしていても何ら不思議ではない。
王族と婚約していた貴族の子女が婚約破棄されて追放されたり、市井に降りてきたり。王族だって一歩間違えればそうなるようなシビアな世の中だ。
誰だって自分の一族には優秀な人間を欲しがる。大勢の人間が見ている前で盛大に失態を犯したような人間をそのままにするはずがないということか。まあ、貴族なんていうのはそんなもんなんだろう。
そんな貴族社会から敗北した敗北者を何人か見てきたが、今の俺だって似たようなものだ。栄光の勇者パーティから脱落し、挙句の果てには将来を約束していた幼馴染の恋人がいつの間にか寝取られていた。兆候なんてものは感じなかったし、よくわからない。
レオナルドはあんなことを俺に言ってきたが、一緒にいる間は悪いやつじゃなかった。シャオも簡単に心変わりするような人間じゃなかった。ここ数年一緒に活動してきた中で、情が移ってしまったのだろうか。勇者に絆されてしまったのだろうか。
それならそうと、俺に相談して欲しかった。許されないと思ったのだろうか? 相談もできないような小さい人間だと思われていたのだろうか。
それとも俺はずっとレオナルドに騙されていて、俺だけが何も知らなくて、あんな状態になってしまったのだろうか? ……考えてもわからないか。
グルグルと頭の中で纏まらない思考が回り続けて、そして考えるのを止めた。
鉱物と生物の間の様な存在になって、考えることを止めたい。
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