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ロマンチックの欠片もない!
一組のカップル。映画を見たりおしゃべりをした帰り道の二人。「ちょっと小腹が空いたね」と言うリィナに、ルカはホットドッグを買ってきた。リィナは「ありがとう!」と顔を綻ばせ、口を大きく開けてそれを食べた。
A「いただきまぁす」
しかし、ホットドッグを一口食べると、リィナの口の中には辛味がいっぱいに広がった。「かっらぁ! 何これ!」と叫ぶリィナに、ルカは意地悪そうにけらけらと笑った。
B「引っかかった、引っかかった! 店員さんに言って、ケチャップを激辛にしてもらったんだよ」
A「ひどいよ、ルカくん……」
リィナは、あまりの辛さに涙ぐんでしまう。ルカから手渡されたペットボトルの水を飲み、ハンカチで涙を拭いた。すると、目の前でルカが小さな箱を持って立っていた。
A「何、これ」
ルカが箱を開くと、その中には指輪が入っていた。
B「ねえ、リィナちゃん、僕と結婚しようよ」
A「……え?」
リィナには今の状況がよく理解できなかった。ルカは続けた。
B「ちょっと前から、どこかのタイミングで言おうと思って準備していたんだよ。本当はこの前のレストランで言おうと思ったんだけど。ほら、夜景が見えて雰囲気が良かったから。でも、何となく気恥ずかしくってさ」
ルカは照れ笑いして顔を赤くした。
B「それで、何て言うか、『今しかない』って思ったんだよ。リィナちゃん、僕と結婚してくれないかな?」
こんなプロポーズの仕方ってアリ?、と思うと、呆れを通り越して笑いがこみ上げてきた。一生に一度なんだから、もう少しロマンチックにしてくれてもいいんじゃない?、と言いたくもなった。もともと恥ずかしがりだったせいか、ルカは顔が真っ赤だ。けれど、リィナも負けじと顔を赤らめながら、くすくすと笑った。
こんな風に毎日が続くなら、きっとおじいさんとおばあさんになっても、二人で笑いあっているような気がする。
リィナは指輪をはめ、ちょこんと軽く頭を下げた。
A「不束な私ですが、よろしくお願いします」
ルカはぷっと噴き出した。夢の欠片もないプロポーズだって言うのは、百も承知だ。
応じて、リィナもぷっと噴き出した。二人は大笑いしてから見つめ合い、そして軽いキスをした。
激辛ソースの辛味は、二人の甘さで中和されて、ピリリとしたちょうど良い刺激を残していた。
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