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もうすぐバレンタイン。世間はチョコレート一色に染まっていた。
「ただいまー…。あー、今日も疲れた…」
「おとうちゃん、おかいり!」
声のする方へ顔を上げると、3歳になる娘が背中に何かを隠して寄ってくる。
「んー、なんだい?」
「ばれんちゃいんなので、あげましゅ」
嫁には絶対ださない!、と思いつつ娘が渡してくれた箱を受け取る。
娘は箱を渡したことに満足して、母親と兄のいるリビングへと戻っていく。
箱の中には
『ちょこれーと』
と書かれた紙が一枚。
「おとうちゃんに、わたしたー」
「あら。そのお父さんは?」
「わかんなーい」
母と妹の会話を聞いて玄関の方をちらっとみた兄は、悶えている父親の姿を確認してふーっと長いため息をつく。
その兄に、妹が寄ってくる。
「にいに、これあげる」
「んー、ありがとうな」
手にはよくある小さなチョコレート。
どうやら妹の初めてのチョコレートを渡した相手は、父親ではなく自分のようだ。
この事実を父親が知ったら…
すぐに思考を打ち切り、証拠を残さぬようそのチョコレートを静かに口の中へと消した。
今日も我が家は平和です。
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