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「ずっと君を、待ってた。」
そう、ずっと。彼女を思い出さない日なんて無かった。
彼女は、力なく笑ってみせた。
「…ありがとう。」
少し、声が震えていた。
ふとテーブルを見れば、湯気が立つ食べ物達がずらりと並んでいた。そろそろ夕食の時間だった様だ。
僕は彼女に手を差し伸べて、立ち上がった。
「立てる?」
「あ、目は見えるんだ。」
彼女は少し慌てた様子で立ち上がる。無理に笑っているのが手に取るようにわかった。
…それじゃあ、彼女の取られたものはなんだ?
「ただ…ね。」
彼女はそっぽを向いて、重々しく口を開いた。
もっと、酷いものだとでも言うように。
「…君だけが、見えないんだ…。」
「………。」
思っていたよりも胸に突き刺さる。
僕だけ、か…。
…まあ、いいさ。彼女が完全に視力を失うよりも、だいぶいい。僕なんか見えなくたって、何の不自由もないじゃないか。
そう、自分に言い聞かせて。
彼女に見えない顔で、笑った。
「盲目になるより何倍もいいじゃん。それよりさ、ご飯あるから食べちゃおうよ。」
タイミングよく夕食が来た事に感謝しながら、テーブルに歩む。こんなちっぽけな動作さえ、彼女には見えていない。ぎゅっとTシャツの胸倉を掴んで、色々な感情を押し殺した。
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