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「俺なら。手を繋いで…歩きたいかな」
小さく呟くように、唇から願いが零れる。
思い返して慌てながら、
――やっぱり。隣に並んでくれるだけでいい!
と月が言い直すより前に。
「何だ。そんな事でいいの?」
ハイ、とアサキが差し出してくる、整った指先が印象的な手。
「――」
如何したらいいか解らず、そのまま立ち尽くす月の手を、奪い取るようにして、
「いいから!」
アサキはぐいと引っ張って歩き出した。
嬉しい。
苦しい。
でも、嬉しい。
「なあ、アイダさん。――何でお試しデートで此処までする必要があるんだよ。俺と手繋いで、楽しいか?」
「うん。楽しいよ?――だってルン君。俺のこと」
――好きだよね?
「え?」
「俺。素直な人が好きだよ。
――もう一遍だけ聞くけど」
俺のこと好きだよね?
これだけ念を押されて聞かれても、まだ頷かない月に、
「ね。ルン君。まだわかんない?」
今日のコースね。話したときスッごく盛り上がったとこばっかり選んだんだよと言われて。
「――俺、気が付いちゃってたんだ」
びくり、と肩が反応して、振りほどこうとする月の手を、
アサキの手が逃げないでよ、と言いたそうに、力を込めてくる。「月君今まで、俺と話しながら、頭の中でデートしてたんだよね?」
見抜かれてた?
恥ずかしさに耐え切れずに、顔を背けたら。
「俺もだよ?――いつもね。ルン君と並んで歩いて、同じもの見て。ルン君のこと、抱いてた」
こんな風にね?
背中から抱き寄せられた。
「俺ルン君のこと、好きだよ?」
耳元で囁かれるだけで。これは夢なんだと月は言い聞かせたいのに。
「だからもう逃げないで。ルン君。俺のものに、なって」
「――」
月はアサキの腕に手を添えて。
『俺の空っぽだった箱。ちゃんと全部アイダさんが埋めてくれてたんだ』
月はずっと欲しかった言葉を最後に手に入れたことが解って、幽かに頷きを返した。
「じゃ。ルン君。車とりに、行こう?」
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