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アサキが運転して連れてきた最後の目的地。
臨海公園の観覧車が対岸に見える海辺の草野球場。
ナイター施設はないから夜は人影もなくて。静かに海辺の夜景が見渡せる。
車の側面に並んで凭れながら、
「きれいだね」
アサキが言うと。
少し間を置いてから月が応える
。
「ああ」
アサキは月の肩を抱き寄せて自分の方に向き直らせた。
初めての口づけ。
軽く啄むようになキスを幾度も続けて、強張っていた月の唇を解けるように柔らかくさせる。
「ルン君とこうなりたいってずっと思ってた」
大きな瞳で視線を返してくる月にまたキス。舌を細く差し出して唇の隙間に捩込むと。一瞬の躊躇いの後で、月は舌を絡めてきた。
怖ず怖ずと手が背中に回されて、力が込められることにアサキは満足する。
絡み合う舌がお互い快感を呼び起こす。
今は二人しか居ない。
でも、何時人が来るか解らない場所。
何故今日、車で来いとアサキが言ったのか、
今更月は思い出した。
何時だったか、セックスのシチュエーションの話になった時。アサキが、
『俺ね。車の後部座席でするのが…』
――一番好き。
月の体を、一瞬で熱が駆け巡った。
「解っちゃった?」
アサキは車体に身体ごと押し付けて、月が逃れられないようにしてくる。
「ルン君。車の鍵、開けて?」
囁きながら耳朶を舌がちらりとなぞったから。
「や…っ!」
「も~。話したときあんなに盛り上がったでしょ!」
アサキは無理矢理抱き寄せた月の後ろに手を延ばして。キーホルダーを引き抜く。
ウインカーが光って、キーレスエントリーの合図。
「じゃーん」
開かれたドアに押し込まれて、
シートに二人で倒れこんだ。
慌てて逃れようと奥の席に後ずさって座れば、
アサキはボタンひとつでキーロック。
流れ出したカーラジオからは。
アダムランバートの
「TIME FOR MIRACLES」
が聞こえて。
『君の笑顔を見ていたら、どうしてこんなに切ないんだろう。
君と交わしたどんなキスも。全部僕は覚えているから』
二人の熱で一気に内側が曇りガラスに変わる車内。
「誰かに…見られる!!」
「誰も来ないよ、こんな時間」
隣に座ってきて、腕を伸ばして
触られた、太腿のこわばるタイミングと同時に声が出る。
「やっ」
中心を乱暴に握られても、逃れる場所がない。
助けを求めるように伸ばした月の手の平が。
曇りガラスを拭って手形を残す。
「は…」
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