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『・・・眠れねぇ』
ベッドサイドの時計の秒針が精確に時を刻むのがやけに耳についた。
寝返りを打っても、シーツには何時も傍にあるはずのあの温もりはなくて。
『明日まだ撮りがあんのに』
五人揃ってのドラマ。誰より楽しみにしていたのは自分だとサトリは思う。台詞を居ないシーンまで覚え、脚本を一番に手放したから。
眠りに堕ちたいのに、枕元の時計の針が秒を刻む音は、させるまいと急かすように耳に届いて来る。精確なアンダンティーノが、彼の眠りを妨げるべく繰り返されていた。
溜め息を付くと、諦めてベッドサイドのランプを付ける。乳白色の光が、優しい筈なのにそれでも眼に痛い。眉をしかめながら時計を確かめた。
『2:30か・・・未だおきてんよな』
短縮でなくても指先が覚えている11桁の数字を携帯に素早く打ち込む。コールが4回、5回。ぷつりと6回目のコールが途切れて、
『はい、--何ですかこんな時間に。私は寝てる最中です。発信音の後にメッセージ入れてください。気が向いたら聴きますから』
深夜用の留守電案内の彼の声は、本当に不機嫌そうに入っている。サトリは電話越しに苦笑した。
電子音の後、
「寝てるとこゴメンな、もう切るから」
切ろうとした携帯の向こうから、必死に引き留める声。
「サ…サトっさん?!ちょぉ…っと、待った!」
サトリは耳元に携帯を戻した。
「俺に寝たフリ使った罰」
「やだなあ、お約束なボケでしょこんなの。それよりサトっさん。どした?」
「ゴメン颯君、ホントは寝てた?」
「いや、台本読みしてたよ」
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