1章 赤い花

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 少女の躰が痙攣しはじめた途端、そこから顔を放し、伯爵は宙を漂うマントを手元に引き寄せた。 「……半端で躰が疼くか?」  高揚し、熱を持つ頬に手を添えると息の上がる唇を親指でなぞり、伯爵は赤い瞳で少女を見つめる。 「──明日も食事にくる……。楽しみに待つがいい‥我が花嫁…」  口端に笑みを浮かべると伯爵は窓際に立つ。そしてマントで身を覆い、一瞬にしてその場から姿を消した。 「花…嫁…」  少女は荒い呼吸を繰り返してポツリと呟く。 (明日も食事に──っ…どうしようっ…怖い……きっと今度こそ咬み殺されちゃう…っ…)  蒼ざめ震える躰を抱きしめて怯える。ただ、躰の中心は熱い熱をもったままだ。少女は怯えながら自分が汚してしまったシーツを見つめた。 (どうしよう……こんなに汚してしまって……きっと給仕頭のマリーに叱られてしまう…)  途方に暮れ、俯いた少女の瞳を涙が覆う。シーツを剥がしながらそれをぎゅっと鷲掴む。少女は零れる涙を堪え唇を強く噛み締めた。 (魔物にまで命を狙われてしまった…っ…唯一ベッドの中だけがあたしの安らぎの場所だったのに…)  この屋敷での少女の待遇は冷たいものだった。そんな中、唯一暖かな場所がベッドの中だけであった。冷たい眼差しで微笑する魔物は夜に人の生き血を啜るヴァンパイアだ。だが、当分の間は咬みつかない。確かそう言っていたはずだ。 (まだすぐに殺されるわけじゃない……じゃあ、逃げるのは今のうちってこと?……)
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