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「神楽坂先輩……」
その人と対峙しているというだけで、俺の体が天敵に出くわした小動物のように強張る。神楽坂先輩に会うと、いつも怖いと思う。それが単純に外見を見て思うのか、もっと根深い意味があるのかは俺にも分からないのだが、恐らく後者だ。
本能が告げている。近づいたら駄目だと。
「……っ」
無意識のうちに拳を震わせ、手のひらに爪を食い込ませていた。認めたくないが、それも全て恐怖のせいだ。
「!」
そんな俺の手を、より大きくて温かい手が包み込む。驚いて顔を上げると、静かに見下ろす琉賀の視線とぶつかった。
「震えてる。やっぱり姫ってか~わい」
「うっせえ!」
図星を刺されて、恐怖も忘れて怒鳴る。気が付くと、緊張が解れているのを感じた。琉賀はこれを見越してわざと言ったのだろうか。
「やっぱ無理なんじゃないですか?手なんか繋いじゃってるし」
成沢の声にはっとして、俺は今の状況を思い出した。そして耳たぶまで真っ赤にしながら琉賀の手を離す。
「でも遊んでみる価値はある。俺のタイプだし」
神楽坂先輩の言葉は不穏な響きを放ち、彼らは視線を交わして合図した。そして、成沢は軽く溜息をついて立ち上がる。
「ちゃんと来てくれたんだね、田辺君」
天王寺先輩と同じく眼鏡男子である成沢の、レンズ越しの眼が笑みで垂れた。
「成沢、あの手紙は一体どういう意味だ?」
「僕はね、神楽坂先輩に強制的に書かされたんだ。先輩が君に何やら大事な用があるらしくて」
言いながら、やれやれと大げさなジェスチャーをする成沢。
「強制的にって、どうしてそんな……」
「俺が書くよりも、功が書く方が田辺君は来ると思いましてね。現にこうして君は来ていますし?」
のそりと大柄な体躯を動かし、神楽坂先輩が俺の方に歩み寄る。がっしりとした体格はキャッチャーだから当然なのだが、それは余計に俺の恐怖を掻き立てる。
後ずさって琉賀の後ろに隠れたいという衝動を抑え込み、なんとか踏みとどまる俺。情けなくも、目に涙が滲んでしまった。
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