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「……んっ……ふぁっ?」
油断してしまった。歯を食いしばらなければならなかったと後悔しても、すでに後の祭りだ。
僅かに緩んだ隙を見逃さず、琉賀はするりと俺の口内にそれを忍び込ませてきた。柔らかいそれは俺の舌に触れ、絡み付く。明らかに自分のものとは違う柔らかく湿ったものは、口の中を蹂躙し始め、何が起こったのか分からないまま、為すすべもなく翻弄される。
そして、次第にくたりと体から力が抜けていくのを感じた。信じられないことに、俺の体は奴の舌使いにやられて、腰砕けになってしまったらしい。
「ん……んくっ……」
元から役に立たなかった抵抗力が、今や余計に意味をなくしてしまっている。それでも力なく琉賀の背中を叩いていた手は、やがて本当に力を失い、だらりとずり落ちた。
焦りが募るほどに、体は言うことを利かなくなっていく。そして膝からも力が抜けた時、琉賀はすかさず腰に腕を回して支えてきた。
「んぅ……っぐ……」
酸欠状態になりかけてからようやく、俺は人間の本能というやつで力を取り戻し、琉賀の股間を蹴り上げた。と思ったが、琉賀はそれをひらりと巧みに躱す。
そして、いつの間にか取ったらしい例の紙を見ていた。
「あ……」
体の自由を取り戻す喜びを味わう余裕もなく、俺は呆然とそれを眺める他なかった。てっきりいつもの戯れかと思ったが、これが目的で、俺の気を逸らすためにキスをしてきたのだ。
「返せよ」
もう読み終えているだろうと分かっているが、俺は一縷の望みに賭けた。しかし、それは琉賀の態度を見て、呆気なく打ち砕かれる。
あの琉賀が、あの変態で頭のネジが緩んだ、ストーカー疑惑のあるキス魔の琉賀が、怒っている。いや、そんな生半可な表現では足りない。憤怒、激怒、まさしくそれだ。
「あ、あの、琉賀……先輩?」
その鬼のような形相に、気軽に話しかけるのも躊躇われ、俺は初めて先輩を付け足した。そんな俺をよそに、怒りに任せてビリビリと粉々に破り捨てながら、琉賀は吐き捨てる。
「話したいことがあるので部室に来てくださいだと?俺の姫に手を出すなんざ、いい度胸じゃねえの!」
「俺がいつ、どこで、なぜお前のもんになったんだよ!勝手に決めつけてるんじゃねえ!」
今度こそ俺は、琉賀の股間を蹴ることに成功したのだった。
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