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ちなみに、手紙の全文はこうだ。
「田辺君、君にどうしても話したいことがあるので、放課後に部室に来てくれないか?待ってます」
文字の特徴や使い方から、俺は即座にある人物を思い浮かべた。
成沢巧。
同じ野球部の二年生で、ピッチャーをやっている。穏やかな気性の持ち主である成沢は、頭が良く、対戦相手のデータ集めなどをするのが得意だ。だからこそ俺たち野球部にとってなくてはならない存在で、野球部の頭脳とも言われている。成沢は決して嫌な奴ではないし、俺はむしろいい奴だと思っていたのだが。
「まさかお前もか?お前もあのセクハラじじいがいいのか?」
窓から校庭を見下ろし、眉を潜めて呟く。
今琉賀のクラスはサッカーをしているため、部長だという彼がどれほど上手いのか見せてもらっているところだ。琉賀はその役職なだけあって、味方への指示も敵への攻めも適格だ。サッカーに関しては素人の俺でも、琉賀がサッカーの技量に長けていることは分かる。
そして普段のへらへらした様子からは想像がつかないほど、サッカーをしている琉賀は真剣で、不覚にもカッコいいとさえ思えた。
「確かにあいつはルックスもいいし、俺だってカッコいいのは認める。だが、性格に多少問題が……」
そして何度も唇を奪われたという、決して無視できない大問題が。思わずその時のことを思い出して、必死で残像を振り払っていた時。
「ひぃめーーっ、どうだーーっ俺カッコいい~?というか見惚れてたぁ?」
琉賀が手をメガホン代わりにして叫んだ。サッカーが休憩に入ったらしい。
「見惚れてねぇよ!」
窓から身を乗り出して叫び返した途端、頭に何かが当たる。
「いたっ」
振り返って見下ろすと、白いチョークが落ちていた。
「姫、十三ページの七行目を読め」
「先生まで!」
数人のクラスメイトが小さな笑い声を上げる。しかし、その他大勢が仏頂面。
「……はあ……」
あの変態がここまでもてるのは世も末だなと思いながらも、すっかり怒る気力もなくしていた。ただ精神的に疲れ果て、大きく溜息をつかずにはいられなかった。
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