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「やっぱりここにいた」
長身で赤茶色の髪を持つその男は、口端を持ち上げ、獲物を捕らえた獣のように目を鋭く光らせた。
「何の用だ。まだいたのか」
もう一人の男は眼鏡を蛍光灯で反射させ、窓の外に目をやりながら無表情で応じる。その男、天王寺要が見た空はすでに太陽の輝きを失い、半分に割れた月がひっそりと浮かんでいた。
「お前こそ。……ああそうか、そういえばお前は、生徒会会計だったな」
琉賀尚雪は一人合点して、鋭い眼光をほんの僅かに緩めた。
「そうだ。毎日毎日、計算だの何だの雑用ばかり押し付けられて、今日もこんな時間まで……」
珍しく取り乱している天王寺に驚き、琉賀は一瞬本来の目的を忘れかけた。
「で?りゅう、何をしに来たんだ」
しかし、「りゅう」と毒牙を含んだ甘い声音で呼ばれた途端、琉賀は顔を歪ませた。
「その名で呼ぶな」
甘い声は琉賀の耳に反響し、絡み付く。そして、危うく琉賀をあの時間に引き戻そうとしていた。それを寸でのところで、苦し紛れに拒む。
「……」
一見無表情に見える天王寺のそれは、少しの間、微かに悲痛の色を浮かべる。
しかし、琉賀はそれに気付かない。いや、もしくは見て見ぬふりをした。
「それよりも、あれはお前が許したんだろう」
まともに目を合わせずに、琉賀はあらぬ方向を見ながら言う。
「何が」
明らかに惚けた声で言う天王寺。それに対して琉賀は逸らしていた目を元に戻し、再び相手を射抜くような視線を向ける。
「幹仁を辞めさせることだ。部長であり、生徒会役員でもあるお前の権限があれば、職権乱用
だとは思うが、部員を辞めさせる、もしくはその状況に追い込むことも可能だろう。教師を言いくるめてその気にさせるのもお前ならやりかねない。しかし通常であれば、お前は部員同士の争いを放置せずに止めに入るか、阻止するはずだが、それをしなかった。つまりそれは、お前が容認したからじゃないのか」
「……そうだと言ったら?」
天王寺は全く憶することなく、さらりと告げる。
「終わったことで幹仁を傷つけるのはやめろ」
ぴくりと天王寺の肩が強張るが、それを無視して琉賀は吐き捨てるように言った。
「そんなことをしたところで、俺はもう戻らない」
そして颯爽と生徒会室から出て行った。
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