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俺は渾身の力で暴れるが、野獣は馬鹿力で難なく抑え込んでしまう。この後、俺と少年が密室に連れていかれて、あんあん泣かされてしまい、裸のまま延々と犯されてしまう不吉な未来を思って恐怖に身が竦む。
誰か助けてくれ。
心の内で叫んだ時だった。
「ぶっ」
俺を抱えていた野獣が呻いたかと思えば、突然投げ出された。幸い体を強く打ち付けることもなく、ゆっくりと立ち上がる。何かの影が過った気がして見回すと、ドッジボールで使うようなボールが二つ転がっていた。
「ってぇな!誰だよ、おい」
「……」
むくりと起き上がった野獣たちはお怒りだ。しかし、野獣の気がボールを投げた犯人に向いているうちに、これ幸いと逃げ出そうとした。
「おい、どこに行く」
しかし気が付いた一人にあっさりと退路を阻まれ、ぎりぎりと痛みを覚えるほど強く腕を掴まれてしまう。
「っ……」
絶望が押し寄せてきて、痛みで顔をしかめた時だった。どこからか誰かが走ってくる足音がしてきた。
「俺の、姫に、触んじゃねえ!」
誰かが飛び出して来たかと思った時には、俺の腕を掴んでいた手が離れていた。その人物が飛び蹴りでも食らわせたのだろうか。あまりに早くて見えなかったが、野獣どもは呻きながら倒れていた。
その男は突然現れた。先ほどの台詞の意味が分からないが、救世主と言ってもいい登場だったせいか、やたらと輝いて見える。いや、違うな。実際、その男はかなり上等な類の美形だ。少し脱色して染めているのか、赤みがかった髪も映えていて、全体的に均整の取れた文句なしのスタイルをしていた。
「大丈夫か!」
そいつは俺の横を素通りし、美少年に駆け寄り、心配げに呼び掛ける。そこでようやく「姫」とは彼のことだったのかと納得していると、唐突にくるりとこちらに向き直って言った。
「それよりも姫!俺の姫様!大丈夫か!」
「ん?」
俺はついに幻聴でも聞こえ始めたのだろうか。そもそも男に対して「姫」と言うこと自体あり得ないのだが、あの美少年だったらまだしも、イケメンは何をとち狂ったのか、俺に向かって言ってくる。
「どこも怪我していないか?俺の愛しい姫君!なんで変な顔するのさ」
「いやいやいや、俺は姫なんて名前じゃありませんから」
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