8

2/3
前へ
/29ページ
次へ
「そんなことより、俺は二人に訊きたいことがあるんだ。尚雪に天王寺先輩、二人は昔付き合っていたんでしょう?なのになんでこんなに仲が悪い、というか空気が重いというのかな。それはなんでかな」  この二人の様子を言葉で説明するのは難しく、俺の語彙力では上手く当てはめることはできなかった。もしかして、喧嘩別れでもしたのだろうか。 「……」  黙り込む二人。やはり何やら訳ありのようだ。 「俺らが付き合っていたこと、知っていたんだな」  急にしんみりした感じで話し始めた琉賀に、俺も表情を引き締めた。 「そうだよ。付き合っていた。でもそれは昔のことだ。今はそういう関係じゃないし、よりを戻すつもりもない。俺は幹仁が好きだからな」  きっぱりと言い切った琉賀は、俺を見て柔らかく微笑む。その笑顔で鼓動が高鳴る。  ここにきて、ようやく確信した。認めないわけにはいかない。俺はこいつのことを、いつの間にか好きになっていた。 「二人はなんで別れたの」  当然の疑問を口にした途端、琉賀の表情が険しくなった。地雷を踏んだんだろうか。 「いずればれるだろうから、教えてやる。実は天王寺はな、俺をストーカーしたんだ」 「え?」  俺はしばらく琉賀の言葉の意味が理解できずに、頭の中が真っ白になった。 「す、ストーカー?」  思わず天王寺先輩の仏頂面を凝視して、ここまでストーカーという単語が似合わない男はいないと思ったのだが、琉賀の言葉はあり得なさ過ぎて、それがかえって真実味を帯びているようにも思えてくる。  しかしいまひとつ半信半疑だという思いは拭えない。天王寺先輩の人柄をよく知っているだけに。それとも、恋人に対しては結構、ということもある。  俺が反応に困っていると、天王寺先輩は無表情のままで言う。 「違うと言っているだろう。お前の思い違いだ」  その言葉に内心ほっとしたのだが。 「あれのどこが思い違いなんだ?登校時も帰宅時も四六時中付け回して、俺の行動を逐一分刻みで把握し、挙句の果てにトイレまでついてきただろ」 「そこまで好きだったから仕方ないだろ。それに恋人だったから、それくらい許してくれたって」  どんどん天王寺先輩のイメージが壊れていく。人は見かけによらない。  二人とも怒鳴り合わずに静かに言い争っているのが、かえって怖かった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加