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再び何かが飛んできて、小気味いい音を立ててイケメンに当たった。そして、急に体の拘束が解かれる。 「お前なあ、いい加減にしろ」  声がした方を見上げると、野球のユニフォームを着て、小麦色に日焼けしている男が立っていた。スラリとしていて、茶色というよりはブロンズの色に近い髪のその男は、こちらもまた整った顔立ちをしていて、俺のファーストキスを奪った男といい勝負だ。 「天王寺(てんのうじ)先輩!」  俺はこれ以上ないほどの素晴らしい救世主に、心の底から喜んだ。  彼の名は、天王寺要。彼は俺が所属している野球部の部長で、試合での活躍は輝かしく、多くの後輩から尊敬されている。そして、その尊敬している後輩の一人が俺で、俺にとって彼はいわゆる憧れの先輩だ。  その憧れの先輩を目を輝かせて見つめていると、不意に目の前にさっきのイケメンが立ち塞がった。残念なことに、天王寺先輩が全く見えなくなってしまう。 「天王寺、邪魔するな。俺と姫の大事なひとときを」  イケメンはそう言うと、天王寺先輩に見せつけるように俺の肩を抱き寄せた。 「んあ!?何言ってるんだおま……んっ」  油断していたためか、俺はあっさりと再び口を塞がれる羽目に。 「……ん……めろっ……はな……んぐっ」  酸欠寸前になるほどの激しいキスの末、ようやく唇を解放された。 「はあ、ハア……。何するんだこの野郎!」  一度ならず二度までも唇を奪われた俺は、怒りのあまり顔を真っ赤にして怒鳴った。そして一発、初めて人を殴った。 「った……」  俺に殴られた頬を奴が押さえていると、今度は反対の頬にボールが当たる。 「ってえな、何するんだてめえ」  軟式のボールとは言え、勢いよく顔に当てられて痛くないはずがない。しかも投げたのは部長。見ていて痛々しいほどに赤くなってしまっている。  しかし気になるのは、イケメンがまるで親の仇でも見るように天王寺先輩を睨んでいることだ。 「ああ悪い。あそこの方が良かったか?お望みならば、しばらく機能しなくなるほど強烈なのをくれてやるが」  しれっと片手を挙げて、真顔の棒読みで謝る天王寺先輩。 「いや、いいっす。頬がいいっす」  彼に言われたら冗談にならないから恐ろしいとイケメンも思ったらしい。睨みながらも、すごすごと後ずさっている。
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