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「ところで先輩、こいつ誰ですか?」
こいつ(俺の唇を出会い頭で何度も奪った男)を睨みつけながら天王寺先輩に聞いた。
「ええ~知らないのぉ!?二年生なのに俺のことを?」
「琉賀尚雪、三年生。サッカー部の部長だ」
無駄な言葉ばかり言う残念なイケメン、もとい、琉賀に対して、要点しか言わない天王寺先輩。
「あのぉ、お取り込み中すみませんが、あと一分で授業始まりますよ?」
すっかり存在を忘れ去られていた美少年が、腕時計を見ながらおずおずと口を挟んできた。
「あれ、お前まだいたの」
あまりに酷い言い草に、俺は琉賀の足を踏ん付けた。思い切り重心をかけたつもりだったのに、琉賀は全くダメージを受けていないようだった。
「じゃ、僕はこれで失礼します。ありがとうございました、先輩方」
それだけを言うと、美少年は頭を下げて走っていく。意外と足が速い。
「よし姫、俺たちも行くか!」
輝くような笑顔で琉賀は言う。
「……学年違うじゃん」
先輩だと分かったのだが、今さら敬語を使うのも癪だったので、そのままタメ語を使う。
「送る」
「断る」
ばっさりと切り捨てる。
「おい琉賀、公衆の面前で変なことするなよ!」
天王寺先輩はそんなことを真面目に心配して言って、背を向けて行ってしまった。
「さあな」
その姿を見送りながら、琉賀は怪しい笑みを浮かべて不穏な一言を呟く。
「は?今なんつった?」
すっかり喧嘩腰の口調になっている自覚はある。
「べっつにぃ~?それより姫、天王寺には気を付けろ」
琉賀は急に意味深な台詞を吐いた。それに問い返す間もなく、琉賀がごく自然に俺の手を握ってきたので、意識の外に追いやられた。
「何だこれは」
それを持ち上げ、不機嫌さを露骨に出す。
「離せ」
「やだ」
引き剥がそうとすると、意外にあっさり外れた。
「分かった」
「何がだよ」
嫌な予感がして後ずさる。と、突然体が宙に浮いた。
「っな!?」
「こっちの方がいいなら早く言ってよ~。喜んでするからさあ」
俺の体が自然と宙に浮く、なんてことはもちろんなく。琉賀に抱き上げられていたのだった。俗に言うあれだ。しかし、その単語を思い浮かべるわけにはいかなかった。
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