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「でも、授業じゃ使わないじゃないか」
一度も見たことがない標本に、門脇が問う。
「そうだよ。俺の前任者が、水族館が改装された時に要らない標本をもらったらしいんだ。それが結構大物だらけ。授業じゃ使わないけど、貴重な標本だし、捨てる訳にもいかない。で、全部、とりあえずここに入れておいたんだ。適当に入れたもんだから、開けた途端に雪崩みたいに棚からこの大きなタイマイの標本が落ちてきて……。その上、それにつられて他の標本も落ちそうになってたんだけど、かろうじて俺とクロードが押さえてた。それなのに、お前が強引にドアを開けるから、その衝撃でこれ全部落ちてきたんだぞ」
恨めしげな口調と裏腹に、知己は特に怒っている様子はなかった。
元々の収納が悪かった為と割り切っている。
知己の擦り傷は、多くの標本が落ちてきたのを止めた時にできたものだろう。
「少しでも手伝いたくて、私もなんとかしようと思ったんですが……」
すまなさそうにクロードが言った。
「そうだぞ、クロード。一回目の雪崩はなんとか途中で止めたのに、お前が動くから……」
笑いながら言う知己に、クロードを責める気持ちもない。
やはり茶化して言っているだけというのは、分かる。
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