第8話 疑惑に囚われた将之

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 時は遡り、十年前。  桜舞う四月。  私立鷹隼高校一年教室の放課後。 「高等部と言っても、あんまり変わってないなぁ」  中位将之は、三階にある一年教室から中庭を見下ろして呟いた。 「中位くん、久しぶり。僕のこと、覚えてる?」  不意に声をかけられた。 「……誰?」 「まあ、覚えてもらえていると思わなかったけど。遠慮無く、ずばっと聞いてきたね」 「転校が多いもんで、覚えてられないんだ」  父の仕事の関係で、将之は転校が多かった。  ここは父親の基盤ともいえる地。  来ては離れ、離れては戻ってきた。  幸いにも、鷹隼学園には小学部から高等部まで設立されている。  その関係もあって、将之はこの学校で転出入を繰り返していた。 「僕、五代光(ごだいひかる)だよ。小学校や中学校でも、同じクラスになったことあるんだけど……」 「なんとなく、聞き覚えはある……かな」  社交辞令的に将之は言った。  転出と転入を繰り返しているのだ。  そういう級友もいるだろうと思った。 「中位くんとまた同じクラスになれて、嬉しいよ」 「そう? ありがとう」 「今から部活見学に行くんだろ? 部活は何にするの? もう、決めた?」 「剣道部」 「え? 君も……?」     
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